タイトル命名。名前は以降「フォーカード」で |
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| 「ふぁぁぁぁ……」 「お眠たそうですね、殿……」 通学路で盛大に大あくびをした僕を見て、刀部さんが苦笑を浮かべて僕に声をかけてきた。 「あー、うん、夢見が悪くて全然寝れなくて……」 ……嘘は言ってない。昨日の夜、淫夢を見てしまってほぼ一睡も出来なかったのは事実だ。 しかもよりによってあったばかりの先輩の…… 「それは私が来たからというこ……」 「あぁ、それはないから大丈夫だよ」 僕が考え込んでいたのを誤解したのか声をかけてきた刀部さんが皆まで言う前に、僕はその言葉を遮って否定する。 昨日も、そして今日の朝も家事一切をやってもらっているのに余計な気苦労まで負わせてしまってはバチが当たる。 まぁ、寝たりない分については授業中に補う事にしよう。幸い、ウチの学校は騒いだりしなければその辺については鷹揚な教師が多いし。 僕が回らない頭でそんな事を考えながら歩いていると、後ろから大きな声が聞こえた。 「センパーイ! おっはようございまぁーすっ! ラヴー!」 僕がその声に振り向くと、鈴川が僕の腰に飛びつこうとして……刀部さんに空中で一回転させられていた。 「……鈴川、お前には学習能力というものがないのか……?」 「先輩知らないんですか愛というのは障害があればあるほど燃え上がるものなんですよつまりこんなに大きな障害がある私と先輩はウルトララヴラヴなわけですよイヤン恥ずかしい」 僕が鈴川に呆れ半分でそんな声をかけると、刀部さんから解放された鈴川は立ち上がりながらそんな事をのたまった。 「……前半は一般論として正しいが、後半は間違ってるな」 「ぶー、先パイつれないですイケズです」 僕のそっけない対応に子供のように膨れっ面をして抗議する鈴川。 ……そんなんだから恋愛対象とは考えれないわけだけどな……。 「メ、メイちゃん……武屋先輩疲れてるみたいだし……」 猛ダッシュしてきた鈴川にやっと追いついた早苗ちゃんが、鈴川のマシンガントークをやんわりとたしなめる。 うぅ、早苗ちゃんは相変わらずいい子だなぁ……。まぁ、相手が鈴川なんだからもっと強く言ったっていいと思うけど。 「ぶー、サナサナもイケズだー。サナサナだって先パイの事がす……」「メイちゃんっっっっっ!」 何かを言いかけた鈴川を、顔を真っ赤にした早苗ちゃんが大声をあげて後ろから両手で口を塞いだ。 驚いた鈴川が手足をバタつかせて、抗議する……って、あれ? 「えと……早苗ちゃん?」 「な、なんでもないです、なんでもないですから、武屋先輩っ!」 顔を真っ赤にして不自然なまでの否定の言葉を返す早苗ちゃん。……うん、どうやら気付いてないみたいだ。 「あ、いや、さっき鈴川が言いかけた事を聞こうって言うんじゃないんだ」 確かにそっちも気になるが、むしろ今言おうとしてる事の方が急を要するし。 「今、早苗ちゃん、鈴川の口と鼻を両方塞いでるから離してあげたほうがいいと思う」 「……え?」 言われて、早苗ちゃんが鈴川の顔にやった両手に視線をやると、その視線の先には微妙に土気色になった鈴川の顔があった。 「きゃぁぁぁっ、メ、メイちゃん!?」 早苗ちゃんが慌てて鈴川の顔から手を離す。 「……ハァハァ……うっかり口を滑らしかけただけで死にかけるとは思わなかったです……」 「自業自得だな。『口は災いの元』って言葉を頭に刻み付けとけ」 荒い息で呟く鈴川に僕はツッコミを入れる。 そうこうしていると、僕たちの後ろから綺麗なソプラノの声が響いた。 「ほほぅ、何やら騒がしいと思うたらヌシらか。朝も早くから元気よの」 その声に頬が上気するのを感じる。その声を──なにより、その独特な喋り口調を間違えよう筈もない。 僕が声のした方向に顔を向けると、そこにはやはり予想通りの人物──昨日、僕の夢に出て来た九宝院先輩がいた。 「おはようございます、先輩」 夢の事は、夢の事。 僕は自分にそう言い聞かせると、努めて平静を装い先輩に挨拶する。 だが、先輩はそんな僕を見て一言。 「む? ヌシ、何かワシに思うところがあるのかの?」 「いぃっ!?」 先輩が僕の動揺を一発で看破する。……読心でもできるんじゃないだろうな、この人。 「ふふ、顔の筋肉の動きを見れば大体の思考はわかるものよ。 特にヌシは顔に出やすいタイプのようだしのう」 また思考を一発で看破されたし……もう、何かどうでもよくなってきた…… 「……武屋先輩、九宝院先輩とどういう関係なんですか?」 そんな達観した気分になっていた僕に、早苗ちゃんが声をかけてきた。 「えーと、昨日会ったばかりだけど……」 「その割には随分と仲良いんですね」 僕に返す言葉に棘がある気がするのは気のせいか。 特に怒らせるようなことは何もしてないと思うんだけど…… 「……ヌシ、本当に気づいてないのか?」 先輩が呆れたような声で、僕に声をかけてきた。 「……? 何の話ですか?」 「……天然なのじゃろうが、大したものよの……ま、これはこれで面白くなりそうじゃから良いかの」 感心し、そして一人納得したようにたように先輩が呟く。……一体何の話なんだ? 「あの、先輩。それはどういう……」 「どうでもいいが、ヌシらそろそろ急いだ方が良いぞ?」 僕が先輩の発言の真意を確かめようとすると、先輩が僕の発言を遮って声をかけてきた。 「へ?」 僕が虚を突かれて間抜けな声を出すと、先輩はそれを見て楽しそうにさらに言葉を続ける。 「ゆるりとしておると遅刻するぞ。まぁ、それもまた楽しみかも知れぬがの」 言われて僕が腕時計を見ると、時間は急いでギリギリの時間となっていた。 「うわうわ、急がないとです、センパイ!」 「誰のせいだと思ってるんだ、この馬鹿!」 「そ、そんな事言う前に走りましょう、二人とも!」 そんな風に騒がしく走り始めると、先輩が僕の脇を走りながら耳打ちした。 「ふふ、何故ワシをみてうろたえたかは後ほど聞かせてもらうぞ。ゆっくりとな」 そういって楽しそうに笑う先輩を見て、僕は更なる波乱の予感に背筋にうす寒いものを感じたのだった……
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06/20(火) | トラックバック(0) | コメント(0) | フォーカード | 管理
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